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親の口座が凍結されたら葬儀費用は?|預貯金の払戻し制度の上限150万円と手続き

文:大阪の長男 事実の確認:親のこと帳編集部公開日:相続と終活

親が亡くなって口座から引き出せなくなっても、遺産分割の前に、相続人はそれぞれ、口座ごとに「亡くなった時の預貯金の額×3分の1×自分の法定相続分」まで、1つの金融機関につき150万円を上限に、単独で払戻しを受けられます(民法第909条の2)。葬儀費用などでそれ以上が要るときは、家庭裁判所に預貯金の仮分割(仮払い)を申し立てる方法があります。

この記事の要点

  • 遺産分割の前でも、相続人はひとりで親の預貯金の一部を払い戻せる
  • 額は「預貯金×3分の1×法定相続分」で、1つの金融機関につき150万円まで
  • 足りないときは家庭裁判所の仮分割。相続放棄を考えているなら払戻しの前に確かめる

親の口座、すぐには下ろせないの?

ハナの「お葬式代は口座から下ろせばいい」に、ケンがあわてます。エリが遺産分割の前でも使える払戻し制度を説明します。

葬儀費用の話をする台所の場面。ハナが自信満々に話し、タブレットのビデオ通話の画面の中のケンが驚いている
ハナは、自分のお葬式の費用は口座から下ろせばいいと考えています。親が亡くなると、遺産分割が終わるまで、相続人がひとりで預貯金を引き出すことは原則としてできません。お葬式とお墓
払戻し制度を説明する台所の場面。エリが落ち着いた表情で、ハナとタブレットのビデオ通話の画面の中のケンに説明している
エリは、遺産分割の前でも預貯金の一部を払い戻せる制度があると説明します。相続人がそれぞれ、ほかの相続人の同意なしに金融機関に申し出られます。家族会議
払戻しの上限を書いたノートの場面。台所のテーブルでエリが開いたノートを見せ、ハナと画面の中のケンがのぞき込んでいる
払戻しを受けられるのは、亡くなった時の預貯金の額×3分の1×法定相続分で、1つの金融機関につき150万円までです。足りないときは家庭裁判所の仮分割があります。家族だけで見送ったお葬式
口座の確認をめぐる台所の場面。ハナが笑顔でタブレットの画面を指さして呼びかけ、画面の中のケンが汗をかいてあわてている
上限は金融機関ごとに決まるので、どの金融機関に口座があるかを確かめることが、手続きの出発点になります。ハナは、さっそくケンにも口座を書き出すよう迫ります。相続と終活
セリフを文字で読む
  1. 1コマ目
    • ハナ:私のお葬式代は、口座から下ろしてくれればいいわ!
    • ケン:え、亡くなったら引き出されへんって聞いたで?
  2. 2コマ目
    • エリ:話し合いで分ける前でも、
    • エリ:一定の額なら、ひとりで払い戻せる制度があるの
  3. 3コマ目
    • エリ:預金の3分の1に、自分の相続分をかけた額よ
    • エリ:1つの金融機関で150万円までね
  4. 4コマ目
    • ハナ:ケン、あんたも銀行を全部ノートに書いて送りなさい!
    • ケン:なんで先に俺の口座の話になるねん!

漫画:親のこと帳編集部。登場する人物・団体はフィクションです。漫画の画像はCC BY 4.0で提供しています。

親が亡くなると、親の名義の預貯金は遺産になり、遺産分割の話し合いが終わるまでは、相続人がひとりで引き出すことは原則としてできません。「口座の凍結」は法令の用語ではなく通称で、名義人が亡くなったことを知った金融機関が口座の取引を止める扱いを指して使われます。いつから、どの取引が止まるかは、取引のある金融機関に確かめます。お葬式の費用や、当面の支払いに親の預貯金を充てたいときに使えるのが、遺産分割の前に預貯金の一部を払い戻せる「預貯金の払戻し制度」です。

遺言がある場合の扱いは、この記事では取り上げていません。金融機関や専門家に確かめてください。

この記事では、払戻しを受けられる額の計算と上限、手続きの流れ、金融機関に確かめること、上限を超えるお金が要るときの家庭裁判所の手続きを、表とチェックリストでまとめます。制度の内容は、民法と法務省令の条文、法務省・裁判所・国税庁などの公式の情報で2026年11月5日に確認しました。

親の口座のお金は、葬儀費用に使える?

使えます。遺産分割の前でも、相続人はそれぞれ、ほかの相続人の同意なしに、亡くなった親の預貯金の一部を金融機関から払い戻せます(民法第909条の2)。2019年7月1日に始まった制度で、それより前に亡くなった親の預貯金にも使えます(法務省「経過措置について」)。

この制度ができる前は、2016年12月19日の最高裁判所の決定によって、預貯金は遺産分割の対象になり、相続人がひとりで払い戻すことはできないとされていました。そのため、生活費や葬儀費用の支払い、親の借金の返済などでお金が要っても、遺産分割が終わるまで親の預貯金を使えないことが問題になっていました。法務省は、こうした葬儀費用などのお金の必要に応えるための制度だと説明しています。

払戻しの方法は2つあります。

比べること

金融機関で直接受ける払戻し

家庭裁判所の仮分割(仮払い)

根拠

民法第909条の2

家事事件手続法第200条第3項

受けられる額

亡くなった時の預貯金の額×3分の1×自分の法定相続分。1つの金融機関につき150万円まで

条文に金額の上限の定めはなく、家庭裁判所が必要性などを見て決める

前提

相続人であること。ほかの相続人の同意は要らない

遺産分割の調停か審判を申し立てていること

認められる条件

計算した額と上限の範囲内であること

親の借金の返済や相続人の生活費などで必要があり、ほかの相続人の利益を害しないこと

手続きの窓口

預貯金のある金融機関

家庭裁判所

向いている使い方

当面の小口の支払い(葬儀費用など)

上限を超える大口の支払い

出典:民法第909条の2、家事事件手続法第200条、法務省のパンフレット「相続に関するルールが大きく変わります」(2026年11月5日に確認)

払戻しを受けられる額の計算と、上限の150万円

払戻しを受けられる額は、「亡くなった時の預貯金の額×3分の1×払戻しを受ける人の法定相続分」で、1つの金融機関から受けられるのは150万円までです(民法第909条の2、平成30年法務省令第29号)。

法務省のパンフレットでは、この計算は口座ごとに行うと説明しています。上限の150万円は金融機関ごとに決まっているので、同じ金融機関に口座がいくつあっても、その金融機関から受けられるのは合わせて150万円までです。別の金融機関に口座があれば、その金融機関でも別に計算します。

1つの金融機関に1つの口座がある場合の例です。

亡くなった時の預貯金

相続人

払戻しを受ける人

計算

受けられる額

600万円

子2人

子のうち1人

600万円×1/3×1/2

100万円

1,500万円

子2人

子のうち1人

1,500万円×1/3×1/2=250万円

150万円(上限)

900万円

配偶者と子2人

子のうち1人

900万円×1/3×1/4

75万円

900万円

配偶者と子2人

配偶者

900万円×1/3×1/2

150万円

出典:民法第909条の2、平成30年法務省令第29号、法務省のパンフレット(2026年11月5日に確認。計算は親のこと帳編集部)

法定相続分は、配偶者と子が相続人なら配偶者が2分の1、子が全員で2分の1です。子が2人なら、子1人の法定相続分は4分の1になります。相続人の組み合わせと法定相続分は、トピックの相続と終活に表でまとめています。

払戻しを受けるまでの流れ

払戻しは、預貯金のある金融機関に申し出て受けます。家庭裁判所の手続きは要りません。おおまかな流れは次のとおりです。

  1. 親が亡くなったことを、取引のある金融機関に伝える
  2. 遺産分割の前の払戻し制度を使いたいことを伝え、必要な書類と、払戻しまでにかかる日数を聞く
  3. 相続人がだれかを示す戸籍などをそろえる
  4. 金融機関の窓口に書類を出して、払戻しを申し出る
  5. 払い戻したお金でお葬式の費用などを払い、領収書を残しておく

払戻しの申し出に必要な書類は、金融機関によって違う場合があります。法務省の資料には書類の一覧がなく、公的機関の案内では確かめられないため、取引のある金融機関に早めに確かめます。

相続人がだれかを示す書類として、戸籍の束の代わりに、法務局で「法定相続情報一覧図の写し」を無料で交付してもらう方法があります。法務局の案内では、亡くなった人の名義の預金の払戻しの手続きにも使えるとしています(法務局「法定相続情報証明制度について」、2026年11月5日に確認)。遺産分割の前の払戻しで使えるかは、金融機関に確かめてください。

金融機関に確かめることのチェックリスト

払戻しの上限は金融機関ごとに決まるので、親がどの金融機関に口座を持っているかを確かめることが、手続きの出発点になります。金融機関に連絡するときは、次のことを確かめておくと、手続きの行き違いを減らせます。

  • 遺産分割の前の払戻し制度を使えるか、窓口はどこか(支店か、相続の手続きの専用の窓口か)
  • 必要な書類(亡くなった親の戸籍、相続人の戸籍、払戻しを受ける人の印鑑証明書や本人確認の書類など、何が要るか)
  • 法定相続情報一覧図の写しを、戸籍の代わりに使えるか
  • 親の口座がその金融機関にいくつあるか、亡くなった時の残高はいくらか
  • 書類を出してから払戻しまで、何日くらいかかるか
  • 払戻しのお金を受け取る方法(現金か、相続人の口座への振込か)
  • 親の口座から引き落とされていた公共料金などをどうするか

葬儀社への支払いの期日が先に決まっている場合は、払戻しまでの日数と合わせて考えます。葬儀社の選び方と、元気なうちに資料を取り寄せておく理由は、葬儀社の選び方の記事にまとめています。

150万円で足りないときは、家庭裁判所の仮分割

金融機関で受けられる額で足りないときは、家庭裁判所に遺産分割の調停か審判を申し立てたうえで、預貯金の仮分割(仮払い)を申し立てる方法があります(家事事件手続法第200条第3項)。

仮分割が認められるのは、親の借金の返済や相続人の生活費などのために預貯金を使う必要があると家庭裁判所が認め、ほかの相続人の利益を害しない場合です。条文に金額の上限の定めはありません。法務省のパンフレットは、上限のある金融機関での払戻しは小口の支払いに、上限を超える大口の支払いには家庭裁判所の仮払いを使うことになると考えられると書いています。

仮分割は遺産分割の調停か審判を申し立てていることが前提なので、金融機関の窓口で受ける払戻しと同じようには使えません。申立てから決定までの期間は、公的機関の案内では確かめられませんでした。相続人どうしで話し合って遺産分割を進める方法も含めて考えます。きょうだいでの話し合いの進め方は、トピックの家族会議にまとめています。

払戻しの前に気をつけること

払戻しを受ける前に確かめておきたいのは、払い戻した分が遺産分割でどう扱われるかと、相続放棄を考えているかどうかです。

  • 払い戻した預貯金は、払戻しを受けた人が遺産の一部の分割で取得したものとみなされます(民法第909条の2)。あとの遺産分割の話し合いで、その分を受け取った人の取り分として考えることになるので、払戻しを受けたことと額を、ほかの相続人にも伝えておきます
  • 相続人が相続財産を処分すると、単純承認したものとみなされ、相続放棄ができなくなります(民法第921条)。払戻しを受けることがこれに当たるかは、法務省や裁判所の案内では確かめられませんでした。親に借金があり、相続放棄を考えているときは、払戻しの前に家庭裁判所や弁護士などの専門家に確かめてください
  • 相続放棄の期限は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月です(民法第915条)。財産を調べても判断できないときは、家庭裁判所に期限を延ばしてもらう申立てができます
  • お葬式の費用の領収書は、払戻しのお金で払ったものも含めて残しておきます。相続税の計算では、一定の相続人などが負担した葬式費用を遺産の額から差し引けるためです

相続税の計算で差し引ける葬式費用と、差し引けない費用の例は次のとおりです。

差し引ける費用の例

差し引けない費用の例

火葬・埋葬・納骨の費用(仮葬式と本葬式の両方)

香典返しの費用

遺体や遺骨を運ぶ費用

墓石や墓地の購入、墓地を借りる費用

通夜など、葬式の前後にかかる、葬式に欠かせない費用

初七日などの法事の費用

お寺などへの読経料などのお礼

出典:国税庁 タックスアンサー No.4129「相続財産から控除できる葬式費用」(令和8年4月1日現在法令等。2026年11月5日に確認)

相続税は、遺産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるときにかかります(国税庁 タックスアンサー No.4152)。基礎控除と申告の期限は、相続と終活のページにまとめています。

葬儀費用の助けになる、ほかの給付

亡くなった親が入っていた医療保険から、条件に当てはまる人に葬祭費や埋葬料・埋葬費が出ます。預貯金の払戻しとは別の給付なので、あわせて申請します。申請できる人は保険ごとに違うので、保険の窓口に確かめます。

亡くなった親が入っていた保険

給付

額

申請の期限

国民健康保険

葬祭費

市区町村によって違う。例:東京都世田谷区7万円、大阪市5万円

例:世田谷区・大阪市は葬祭を行った日の翌日から2年

後期高齢者医療

葬祭費

広域連合と市区町村によって違う。例:世田谷区は合わせて7万円

例:世田谷区は葬儀の翌日から2年

健康保険(協会けんぽ)

埋葬料(いないときは埋葬費)

埋葬料は5万円(生計を維持されていた人に)。埋葬費は上限5万円(埋葬を行った人に)

埋葬料は亡くなった日の翌日から、埋葬費は埋葬を行った日の翌日から2年

出典:世田谷区、大阪市、全国健康保険協会の公式ページ(2026年11月5日に確認)

職場の健康保険から葬祭費や埋葬料が出る場合は、国民健康保険からは出ません(世田谷区)。お葬式の費用の領収書の宛名の人が申請する自治体もあるので、領収書の宛名を確かめておきます。死亡届から葬祭費の申請までの流れは、家族だけで見送ったお葬式の記事にまとめています。

相談先

払戻しの手続きは金融機関、仮分割と相続放棄は家庭裁判所、法定相続情報一覧図は法務局が窓口です。

相談先

相談できること

預貯金のある金融機関

遺産分割の前の払戻しの手続き、必要な書類、払戻しまでの日数

法務局

法定相続情報一覧図の写しの交付

家庭裁判所

遺産分割の調停・審判、預貯金の仮分割、相続放棄、相続放棄の期限を延ばす申立て

税務署

相続税の申告、葬式費用を差し引く計算

市区町村、亡くなった親が入っていた健康保険

葬祭費・埋葬料の申請

出典:法務省、法務局、裁判所、国税庁の公式ページ(2026年11月5日に確認)

よくある質問

親の口座が凍結されたら、葬儀費用は引き出せますか?

引き出せます。遺産分割の前でも、相続人はそれぞれ「亡くなった時の預貯金の額×3分の1×自分の法定相続分」まで、1つの金融機関につき150万円を上限に、金融機関から払戻しを受けられます(民法第909条の2)。必要な書類は金融機関によって違うので、取引のある金融機関に確かめます。

払戻しを受けるのに、ほかの相続人の同意は要りますか?

要りません。この制度は、相続人がそれぞれ単独で払戻しを受けられる仕組みです。ただし、払い戻した分は、受け取った人が遺産の一部を取得したものとして扱われ、あとの遺産分割で考えることになるので、ほかの相続人にも額を伝えておきます。

複数の銀行に口座があるとき、上限はどうなりますか?

上限の150万円は金融機関ごとなので、別の金融機関に口座があれば、それぞれの金融機関で計算した額を、それぞれ150万円まで受けられます。同じ金融機関に口座がいくつあっても、その金融機関から受けられるのは合わせて150万円までです。

払戻しを受けると、相続放棄はできなくなりますか?

できなくなるかどうかは、法務省や裁判所の案内では確かめられないため、相続放棄を考えているときは、払戻しを受ける前に家庭裁判所や弁護士などの専門家に確かめてください。民法には、相続人が相続財産を処分すると単純承認したものとみなす定めがあります。また、払い戻した預貯金は、受け取った人が遺産の一部を取得したものとみなされます。

150万円では葬儀費用が足りないときは、どうすればいいですか?

遺産分割の調停か審判を申し立てたうえで、家庭裁判所に預貯金の仮分割(仮払い)を申し立てる方法があり、条文に金額の上限の定めはありません。調停か審判の申立てが前提なので、相続人どうしで遺産分割の話し合いを進めることや、葬祭費・埋葬料の申請もあわせて考えます。

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出典